前立腺がん
前立腺がんは高齢男性に多い病気です。今後も高齢化や食生活の欧米化などから、増加すると予測されています。また、検診で発見された前立腺がんは早期であることが多いですが、尿の症状があって泌尿器科を受診され、前立腺がんがみつかったケースでは進行していることがあります。前立腺がんは検診による早期発見が可能であり、それにより適切な治療ができます。
前立腺がんにかかる人は今後増えることが予想されています。日本での2011年の年齢調整罹患率は胃がん、大腸がんに次いで男性がんの第3位でした。また、2014年の年齢調整死亡率は肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、すい臓がん、結腸がん、直腸がん、食道がんに次いで第9位であり、2000年をピークに緩やかな減少傾向にあります。
診断
前立腺がんの診断は、前立腺特異抗原(prostate specific antigen:PSA)検査を中心としたスクリーニング、生検による確定診断、各種画像診断による病期診断という3つの段階を経て完結します。これらは治療法の決定およびその後の経過を予測するという意味でも大変重要な情報をもたらしてくれます。
まずPSA検査を行い、PSAカットオフ値(0.0〜4.0ng/mL)あるいは年齢階層別PSAカットオフ値(50〜64歳:0.0〜3.0ng/mL, 65-69歳:0.0〜3.5ng/mL, 70歳以上:0.0〜4.0ng/mL)を参考に、カットオフ値を超える場合に経直腸的超音波ガイド下前立腺生検が考慮されます。
前立腺生検には経直腸(直腸の壁からのルート)生検と経会陰(肛門と陰のうの間からのルート)生検があります。生検本数は初回生検では、10〜12カ所の多数カ所生検が推奨されています。いずれのルートでもがん検出率は同じですが、合併症の一つである感染症に関するリスクは経直腸生検の方が高いです。
生検で前立腺がんが確定すれば病期診断を行うことになります。前立腺部でのがんの拡がり(T-病期診断)についてはMRIが最も信頼性が高いとされます。リンパ節転移の有無(N-病期診断)に関しては、最良の評価方法はリンパ節郭清術により摘出したリンパ節を顕微鏡で確認する(病理診断)ことであり、CTやMRIは決して十分でないと考えられています。遠隔転移(M-病期分類)に関しては、骨転移診断には骨シンチグラフィーが、骨以外の転移部位診断にはCTやMRIが適宜選択されています。
前立腺がんの病期診断は治療方針の決定に大きく影響するため、各種画像診断によりできるだけ正確になされる必要があります。
治療
T.ホルモン療法
1.外科的去勢術:一般に精巣(睾丸)を摘出することを示します。LH-RHアゴニストの開発により、今では外科的去勢は殆どなされなくなりましたが、患者様が通院困難であったり経済的な問題で内科的去勢を受けることができないなど、社会的要因を理由になされることがあります。
2.内科的去勢:LH-RHアゴニストが代表的です。これに加え複合アンドロゲン遮断(combined androgen blockade;CAB)療法という名称で、抗アンドロゲン剤との併用も行われています。近年新規ホルモン薬として2012年にLH-RHアンタゴニスト(デガレリクス)が、2014年にはエンザルタミドとアビラテロンが実臨床に導入されました。
3.間欠的ホルモン療法:ホルモン療法を間欠的に繰り返すことにより、ホルモンに対する依存性を長期間維持する試みが提唱されました。これらにより性機能障害などの有害事象を軽くしたり、生活の質を改善したり、治療費を抑えることが期待されています。
U.前立腺全摘除術
前立腺全摘除術は10年以上生きることが予想される方で、かつ悪性度が高くなく(低〜中間リスク)、前立腺内にとどまっているがんに奨められます。方法としては開腹による恥骨後式前立腺全摘除術、腹腔鏡下前立腺全摘除術、ロボット支援前立腺全摘除術などが保険適用のもとに行われています。手術合併症は出血、尿失禁、性機能障害が主なものです。手術療法ではがんの根治性と合併症軽減が求められます。がんの根治性においては、これら3つの術式において切除部にがんが残っている率や、手術後にPSAが再発レベルまで上がる率に大きな差はありませんでした。出血量は、ロボット支援前立腺全摘除術や腹腔鏡下前立腺全摘除術の方が開腹による恥骨後式前立腺全摘除術よりも少ないことが認められています。尿失禁と性機能障害の回復については一定の見解を得るのが難しいですが、開腹による恥骨後式前立腺全摘除術や腹腔鏡下前立腺全摘除術と比較し、ロボット支援前立腺全摘除術で早期の回復が認められたとの報告があります。
V.放射線療法
1.外部照射療法:放射線療法の殆どは体の外から放射線を照射する外部照射療法です。3次元原体照射、強度変調放射線治療、粒子線治療(重粒子線等)などがあります。外部照射療法では前立腺だけでなく周辺臓器(膀胱、尿道、直腸など)にも放射線があたるため、副作用として直腸潰瘍や出血、膀胱出血、勃起障害などが起こることがあります。これらの副作用を軽減するために、よりがんに焦点をあわせた強度変調放射線治療や重粒子線治療が求められます。重粒子線治療は2018年4月から公的保険の適応をうけました。
2.組織内照射療法:組織内照射療法には前立腺に放射線の小線源(ヨウ素125)を永久的に埋め込み、そこから放射線を前立腺に照射し、周辺のがん細胞を死滅させる治療法(低線量率永久挿入組織内照射法)と一時的に前立腺内に針を刺し、高エネルギーの放射線(イリジウム192)を前立腺内に照射する治療法(高線量率組織内照射法)があります。外部照射に比べ、周囲臓器への照射量を抑えることができるので合併症が少ないことが利点です。
W.監視療法
前立腺生検で見つかったがんがおとなしく、治療を開始しなくても余命に影響がないと判断される場合に経過観察を行いながら過剰な治療を防ぐ方法です。監視療法が適している状態はPSAが10ng/mL以下、病期がT2以下(前立腺内にとどまっているがん)、グリーソンスコア(悪性度)が6以下などです。監視療法中は3〜6か月ごとに直腸指診やPSAを測定し、1〜3年ごとに前立腺生検を行います。生検の結果でグリーソンスコアの上昇やがんの占める割合が増えたりした場合などに治療開始を考慮します。